低侵襲脳血管内治療センター

低侵襲でも安全に行う脳のカテーテル治療(脳血管内治療)

当センターでは、「身体への負担が少ない低侵襲(ていしんしゅう)な脳のカテーテル治療」を標準的に提供しています。具体的には親指の付け根(遠位橈骨動脈)-手首の付け根(橈骨動脈/尺骨動脈)を第一選択に、早期の制限解除、離床、リハビリ介入の実現を目指しています。

当センターの取り組み紹介①

患者様にやさしい「手からの脳神経血管内治療(TRN)」を積極的に導入しています

私たちの病院では、できるだけ身体に負担をかけない「低侵襲治療」を目指した一環で、2021年から、治療別に、安全面を担保しながら段階的に、TRN(親指の付け根(遠位橈骨動脈)―手首の付け根(橈骨動脈/尺骨動脈)からのアクセス)を取り入れ、早期の制限解除、離床、リハビリ介入の実現を目指しています。

手からの脳神経血管内治療とは?

これまでは、脚の付け根(大腿動脈)から細い管(カテーテル)を入れて、脳の血管まで届かせて治療するのが主流でした。しかし、最近では手からの脳神経血管内治療TRNが注目されており、患者様への負担が少なく、刺す部分のトラブルが脚の付け根より少ない、という大きなメリットがあります。

対応している治療の幅も拡大中!

当センターでは、次のようなさまざまな病気に対して、TRNを導入しています。

  • 難治性慢性硬膜下血腫への治療(中硬膜動脈塞栓:MMAE)
  • 頚動脈の狭窄に対するステント治療(CAS)
  • くも膜下出血を一次あるいは二次予防(止血)する脳動脈瘤塞栓(コイル)
  • 動静脈奇形/動静脈瘻を一次あるいは二次予防(止血)する(Onyx)
  • 親血管から瘤を治すフローダイバーター治療(FD)
  • 脳梗塞に対する脳血栓回収治療(MT)

2021年から2024年にかけて、すでに250例以上の患者様に対して手からのアプローチを行ってきました。

技術進化と工夫でより安全・確実に

特に2022年以降は、治療前に当センターパラメディカルの手厚いサポートで、超音波で血管の太さや走行をしっかりと確認した上で、患者様の痛みや体の姿勢も細かく調整し、安全でスムーズな手技を行えるようになってきました。さらに2024年からは、手首の治療専用に開発されたガイディングカテーテル(RIST)の登場により、さらに対応できる治療の幅が広がりました。

患者様の廃用を防ぐのにも良い影響が!

脳梗塞に対する血栓回収治療(MT)では、これまでの脚の付け根からの治療と比べて、手術成績は劣りませんでした。更に、TRNの方が、術後すぐにベッドから起き上がってリハビリが始められるという利点がありました。これは、特に高齢な患者様の廃用進行を食い止めるのに大きなポイントです。

症例紹介①:くも膜下出血を手の血管から、心不全を脚の血管から同時に治療

自宅で2回の失神を起こし、命に関わる危険な状態(ショック)で救急搬送されました。検査で、脳の血管が破れて起こる「くも膜下出血」と、心臓の機能が低下する「心不全」が同時に起きていることがわかりました。人工呼吸器でも対応しきれず、当院循環器内科様で心臓の補助装置(大動脈内バルーンパンピング)を緊急で脚の付け根より挿入してもらい、親指付け根の血管(遠位橈骨動脈)からカテーテルを使って、破れた脳動脈瘤を塞ぐコイル治療を行いました。この手術では、通常使う大腿動脈から大動脈を使えない中、当センターでは手の血管からのアプローチで出来る為完遂出来、体への負担も最小限に抑えることができました。結果として、この患者様は自分の足でリハビリ病院に移り、その後社会復帰されています。

症例紹介②:両側の脳動脈に見つかったこぶ(瘤)を手の血管からステントで治療

作業中に突然の頭痛を感じて救急受診されました。検査をすると、脳の血管の一部がこぶのように膨らみ(これを「動脈瘤」といいます)、血管が細くなったり広がったりしている異常な形(“パール・アンド・ストリングサイン”)が左側に見つかりました。当初は投薬と画像検査で経過を見ていましたが、12か月後に再び頭痛を訴えられ、今度は右側の血管にも同様の異常が見つかりました。筋肉質かつ恰幅よく、脚の付け根が深かった方だったため、治療は親指付け根の血管(遠位橈骨動脈)からカテーテルを挿入し、血管の中に特殊なステント(フローダイバーター)を留置して、動脈瘤の内側を補強・閉塞する方法を選びました。この治療を右側にまず行い、2か月後の検査では異常は消失していました。次に3か月後に、同じ方法で左側も治療しました。いずれの治療も、脚からの治療より大幅に短い入院期間で歩いて退院、二度目の治療から半年後にはほぼ治癒、頭痛も消失されました。現在も外来で元気に経過観察中です。

まとめ

医療技術の進歩により、治療方法も進化しています。
「より安全・低侵襲・早期社会復帰」を目指し、日々工夫と改善を重ねています。
一人ひとりに最適な治療を提供できるよう、これからも取り組みを続けます。

当センターでは、こうした低侵襲で安全性の高い治療を、経験豊富なチームで行っています。

参考文献

1. Okuma Y, Hirotsune N, Hirahata S, Tanda A, Suzuki K, Shimoda K, et al. Making Neuroendovascular Therapy for Cerebrovascular Disease Using Distal/Trans-radial Artery Access Safer. Adv Exp Med Biol. 2024;1463:97-102.
2. Okuma Y, Hirahata S, Tanda A, Suzuki K, Shimoda K, Kido G, et al. Preventing Fluid Retention After Subarachnoid Haemorrhage During Administration of Endothelin Receptor Antagonist. Adv Exp Med Biol. 2024;1463:167-172.
3. 大熊 佑. 脳血管内治療エッセンス 経橈骨動脈脳血管内治療 Rist登場で広がる治療選択肢: 脳神経外科速報. 35: 124-132, 2025. 

当センターの取り組み紹介②

再発をくり返す「慢性硬膜下血腫」への頭にメスを入れない治療

ご高齢の方に多い「慢性硬膜下血腫」という病気は、脳の表面に血液がたまり、頭痛・歩行障害・意識の低下などを起こすものです。通常は頭にメスを入れて血を抜きますが、高齢や再発しやすいケースでは何度も再手術が必要になることもあります。

当センターでは「カテーテルでの栄養血管塞栓」を積極的に導入しています

私たちは再発を認めた慢性硬膜下血腫に対して「中硬膜動脈塞栓術(MMAE)」というカテーテル治療を10年以上前から取り組み、2021年以降「親指付け根の血管(dTRA)」からのアクセスを導入してきました。この治療では、頭蓋内の血腫に関係する血管を内側から塞ぐことで、再発のリスクを下げます。当センターでは、dTRAを第一選択とし、多くのご高齢の患者様に対して行ってきました。

これまでの治療実績

これまでにMMAEは100例(平均年齢:約81歳)を超え、四分の三の方に、認知機能(特に前頭葉機能)の低下がありました。治療後、ほとんどの方が1日以内にリハビリを再開できました。半数以上の方が安静を保てない背景ございましたが、再発や合併症も非常に少なく(再発予防効果99%超)、いずれも軽度で後遺症はありませんでした。

医療経済も考慮した“ちょうどよい治療”を

頭にメスを入れる回数を最小限に、「必要な方法を組み合わせて、安全に、確実に、潜在的な再発を含めた場合経済的にも負担を減らす」治療を行うことも、私たちの大切なポリシーです。MMAEは、まさに患者様の負担を減らしつつ再発を予防する、未来志向の治療です。

まとめ

頭にメスを入れずに慢性硬膜下血腫の再発を予防できます。
高齢・認知症のある方でも受けられます。
体にやさしい親指付け根の血管からの治療で、早期リハビリ・早期回復が可能です。

当センターでは、こうした低侵襲で安全性の高い治療を、経験豊富なチームで行っています。何度も再発してお困りの方や、ご家族の方は、ぜひご相談ください。

参考文献

1. Okuma Y, Hirotsune N, Sato Y, et al. Midterm Follow-Up of Patients with Middle Meningeal Artery Embolization in Intractable Chronic Subdural Hematoma. World Neurosurgery. 2019; 126: e671-e678.
2. Okuma Y, Hirotsune N, Sotome Y, et al. Middle meningeal artery embolization for chronic subdural hematoma with cerebrospinal fluid hypovolemia: a report of 2 cases. Neurochirurgie. 2021; doi:10.1016/j.neuchi.2021.02.008.

動画

ページ上部へ